つかんだ物は放すな


 昔のお話し。市川の菅野に紋兵衛という大尽どんがいました。
 それはひどいケチん坊で、田ももひきなどは、下の方がボロボロにすり切れると、膝から下を切って半ズボンのようにして田に入っていました。
 また、飯のおかずはいつも芋の煮ころがしで、味付けもろくにしません。
なぜ、芋のおかずかっていうと、安上がりだし、腹がはってあまり飯が入らないからだと言います。

 ある時、この屋敷に一人の男がやって来ました。
男は「お宅は、このあたり一番の大金持ちだと伺いました。私も何とかお宅にあやかって金持ちになりたいのですが、そのコツを教えていただけませんか」
と訪ねると、紋兵衛さんは屋敷の裏山につれて行って、
「そこの木にのぼりなさい」と言います。
男はこれは金持ちになるコツを教えてくれるのかどうか心配になりましたが、
木にスルスルとのぼりました。
「それでは、その張り出している枝につかまって、ぶら下がりなさい」
と紋兵衛さんが言うと、男は怖くてたまらないのも我慢して、枝にブラーッとぶら下がりました。
紋兵衛さんは下から男を黙って見上げているばかり。
いつになっても何とも言いません。
男は疲れきってしまい、泣き声で、
「旦那さん、いつまでつかまっていれば良いのですかい」
とたずねました。
「金持ちになりたけりゃ、つかんだ物はぜったい放すな!」
と言ったそうです。

明治になってからも紋兵衛さんは東京の銀行まで、竹で編んだ「ばいすけ」っていう籠にお金を一杯入れて、天秤棒をかついで、わらじ履きで行ったそうです。


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