三吉稲荷


野房の松原 多田良の田んぼ
月のない夜は 狐狸がなく

こんな歌もあるほどなので、このあたりには狐や狸がいっぱいいました。 
狐や狸は人をだましますが、多田良の通りに軒を並べる茶屋の女達も化かし上手でした。

この多田良のある茶屋に「丸山のお玉」という女がいました。
気立ての良い色白の娘でしたが、父親が病気がちで暮らしに困り店に出るようになりました。
このお玉のところによくやって来る背の高い若者がいました。
どこの村の者かは誰も知りませんでした。
茶屋の者たちは、房州へ薬の行商にでも来ている者ではないか、などとうわさしていました。

お玉とこの若者はいつしか良い仲になっていました。
でもお玉には茶屋に借金がまだ沢山あり、この若者もそれを払ってやるほどの金はありませんでした。

「この世で添えないならば、いっそあの世で2人で幸せに暮らそう」

若者とお玉は丸山岬から荒れる海を目がけてまっ逆さまに身を投げました。

翌日、浜の者たちはお玉と大きな狐とがぎゅっと抱き合った亡きがらが磯に打ち上げられているのを見つけて大騒ぎになりました。

「ああ、いつも茶屋に来ていた若者は狐だったのか。
 きっと野房の松原でいつも人を化かしていた三吉狐にちがいない」

「それにしても可哀想なことをしたもんだ」

村人たちは船形の丸山岬に塚を築き「南無畜生頓証菩提」と書いた塔婆を建て、石の地蔵様を二体彫って供養しました。
そして野房には三吉稲荷を祀りました。

この稲荷様の前を花嫁や花婿の行列は通ってはならないと言われていましたが、今はどの稲荷様か分からなくなってしまいました。


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