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房総の原野には、だいぶ昔から馬が放し飼いにされていたと言います。
下総の小金の牧と佐倉の牧、それに安房の嶺岡の牧は、それは広い牧場で、
まわりには高い土手や柵がめぐらしてあって、年に二度の野間追いがありました。
村人たちが野馬を捕りこめに追い込んで馬の数を調べたり、良い馬を江戸の幕府に差し出したり、駄馬を村人に払い下げたりする行事です。
源平の合戦の折の名馬、薄墨(太夫黒)や池月も、嶺岡の牧のあたりの産だといいます。
ある日、嶺岡の牧の野子とりに増間村の松平と佐吉どんが出かけて行きました。
二人は一年がかりでためた金をふところに入れて行ったのですが、たいした額ではありません。
この金で買えるほどの安物の子馬は一頭もいませんでした。
しょうがないので、二人は有り金を全部はたいて、ひどく見すぼらしい買い手のつかない子馬を一頭手に入れました。
それでもやっと手に入れた馬なので、二人は大事に大事に育てました。
すると、初めは、やせこけて見てくれの悪い子馬だっのに、脚はすんなりとして、尻尾の垂れや毛並みもなかなか良くなって来ました。
それに何しろ、ひづめだって、四つが四つとも満足に揃っています。
「松平どんよぅ。これならいい値で売れる馬に育つかも知んねえど」
「佐吉どんさぁ。こらあ思ったよりも、いい買い物をしたねえ」
子馬はすくすくと育ち、やがて見事な若駒となりました。
ある日のこと、二人は馬をきれいにみがきあげて、背中にこもをかけて荒なわで結び、両肩には、ワラのつとっこを垂らして、よそ行きらしく飾ると、町の馬喰の所へ連れて行きました。
馬喰は、馬を歩かせたり、たて髪をなでたり、口を開かせて中をのぞいたりしていたが、一言もしゃべりません。
松平と佐吉どんは、
「こらあ、どこか具合の悪いところがあるのか知れねぇ」
と心配になってきた。
「馬喰さんよぅ。この馬を見た者は、誰でも褒めてくれますが、どういう具合ですかねぇ」
と、馬喰の目を二人でのぞきこんで訪ねても、何とも答えず黙っています。
「思い切って十五両で手を打つとすべぇ」
黙っていた馬喰が急にこう言いました。
二人はすっかりたまげてしまいました。
十五両といえば、これはとんでもない大金です。
二人は金を貰うと橋のたもとの茶屋でひと休みしながら金を半分ずっこに分けることにしました。
何しろこんな大金は手にしたことがありません。
天保銭でないと分け方がわからないので、茶屋で両替えしてもらって分けると、大きなふろしきに包んで、えっちらおっちら戻りました。
何でも大切にするといいことがありますね。
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